4558型オペアンプの出力跳躍現象

最近のCMOSオペアンプは入出力電圧範囲がレールtoレール(0V付近から電源電圧付近まで)なので、DC特性についてはあまり細かいことを気にせずに使用できますが、古くからある汎用オペアンプは入出力電圧範囲が狭いので注意が必要です。特に非反転アンプとして使用するときは、入力電圧によってオペアンプの同相入力が変化するので、オペアンプのデータシートで同相入力電圧の仕様を確認しておく必要があります。

図1は4558型オペアンプ(NJM4558等)を使用したユニティゲインアンプを単電源動作させたときの入出力特性で、本来ならばVout≈Vinとなるはずですが、実際にそうなるのは(a)の領域だけです。 特に、Vinが約0.9V以下となると出力が跳躍してhighとなってしまいます。この跳躍現象は、オペアンプ内部の初段差動アンプの回路形式に起因します。

図1: 4558型オペアンプを使用した単電源ユニティゲインアンプの入出力特性

4558型オペアンプは、シンプルな回路構成なので、オペアンプの内部回路を解析するのに適した回路です。 図1(b)の(a)~(d)それぞれの領域について、内部トランジスタの動作点を考えてみます。VBE(on)=0.7V, VCEsat=0.2Vとして解析します。


領域(a) 正常動作: 1.4V<Vin<Vcc-0.9V (図2)

この領域では、すべてのトランジスタが能動領域となり、正常なユニティゲインアンプとして動作します。 定常状態において Ic1≈Ic4 となるような動作点に落ち着きます。なぜなら仮にIc1≠Ic4とすると、電流差が Q9 のベース電流 → Q11 → Q14,Q15 → Q2 のベース電流 と伝搬・増幅され、結局 Ic1 ≈ Ic4 となるように調整されるからです。

Q3,Q4はカレントミラーで、Ic3=Ic4となるので、Q1とQ2のコレクタ電流は同じ(Ic1=Ic2)になります。つまり、電流源Ic5の電流が半分ずつQ1とQ2に流れるので、VBE1=VBE2となり、

\begin{align} V_{out} = V_{B2} = V_{in} +V_{BE1}-V_{BE2} = V_{in} \end{align}

となります(イマジナリーショートが成立します)。Q15とQ9のベース電圧は、

\begin{align} &V_{B15} = V_{out} - V_{BE15} = V_{out} - 0.7 \text{ (Vout と連動)}\\ &V_{B9} = V_{BE11} + V_{BE9} = 0.7 + 0.7 = 1.4 \text{ (一定値)} \end{align}

となります。ダイオードD1の両端の電圧は 2.1-Voutなので、この領域(Vout>1.4V)ではダイオードD1はオフとなります。

図2: 領域(a) 1.4V<Vin<VCC-0.9V, 青字はノード電圧, 灰色はオフしている素子

領域(b) 下限クリップ: Vin<1.4V (図3)

図2のノード電圧(青字)を見ながら入力Vinを下げていくと、Vin,Voutが1.4V以下でダイオードD1の順電圧が 0.7Vとなってオンすることがわかります。このダイオードは、Q9,Q11のベース電流のさらなる増加を防ぐことでQ11のオーバードライブを防止するために挿入されています。Q15のベース電圧VB15と出力電圧Voutは

\begin{align} V_{B15} = V_{B9} - V_{D1} = 1.4 - 0.7 = 0.7\text{ V (一定値)}\\ V_{out} = V_{B15} + V_{BE15} = 0.7 + 0.7 = 1.4\text{ V (一定値)} \end{align}

となります。つまり、D1によってVout(=VB2)がクランプされ、イマジナリーショートが成立しなたなくなります。 Vinをさらに下げると、電流源Ic5の電流がすべてQ1側に流れるので、Q2,Q3,Q4がオフします。

図3: 領域(b) Vin<1.4V, 青字はノード電圧, 灰色はオフしている素子

領域(c) 出力跳躍: Vin<0.9V (図4)

図3の領域ではQ1のエミッタ-コレクタ間電圧はVCE1=Vin−0.7なのでQ1は能動領域ですが、Vin=0.9V まで低下するとVCE1=0.2VとなってQ1は能動領域から飽和領域へ移行します。 飽和領域トランジスタの等価回路は、エミッタ-ベース間ダイオードDEB、コレクタ-ベース間ダイオードDCB、飽和電圧VCEsatで表現されます (図4)。

Vinをさらに下げると、VB9,VB11も一緒に低下し、Q11がOFFし、Q14によってVout=highにプルアップされます。

図4: 領域(c) Vin<0.9V, 青字はノード電圧, 灰色はオフしている素子

領域(d) 上限クリップ: Vin>VCC-0.9V (図5)

VoutがVCC-0.9V程度以上となると、電流源IC10が能動領域を保てなくなるので、Voutはこれ以上上昇しなくなります。Vinをさらに上げると、Q1がオフするので、Q4によってQ9のベース電圧がプルダウンされ、Q9,Q11,Q15がオフします。

図5: 領域(d) Vin>Vcc-0.9V, 青字はノード電圧, 灰色はオフしている素子

領域(c)及び(d)におけるVoutは、負帰還のかかっていないエミッタフォロア回路(Q14)の出力となるので、負荷電流に依存します(負荷を重くするほど低下します)。


実測結果

下図は電源電圧9Vで測定した結果です。

図6: ユニティゲインアンプ特性の測定結果

4558型オペアンプの出力の跳躍現象は、初段差動アンプの回路形式に起因しています。 なお、TL082等多くの定番オペアンプでも跳躍現象が現れます(741型オペアンプは入力差動アンプが別の回路形式なので現れません)。 跳躍現象を防ぐために入力電圧範囲に注意することが必要ですが、同相入力電圧が変化しないように回路形式を反転アンプとするほうが安全です。